これで終わっちゃったの?

…プロポーズ

「ねえお前、いったいどういうつもり?いつまでそうしているつもりっ?」
…と、母親が言った。
98年12月のある日。久しぶりに帰省した実家での事だった。

私には、もう「くそ長い」付き合いの恋人がいた。あちらのご両親と私は、もう数年来の付き合いだし、彼も既に私の両親への挨拶を済ませている。
でも、それだけ。
「結婚」という具体的な話はまだ出ていなかった。それどころか、なんとなく彼が話を避けている感さえある。

私はと言えば、…実はこちらもそれほど結婚願望がなかった。仕事も忙しく充実していたし、一人暮らしは楽しいし(というよりも、他の人と一緒に暮らすなんて考えられなかった)。
もちろん、早く親を安心させてあげたい気もするし、なんとなく続いているような状態には、苛立ちも焦りもあった。でも、そんなことで結婚を迫るのも気が引ける。時々は彼に、親にうるさく言われて困っていることを話したりもしたけれど、適当にかわされてしまう。

「面倒くさいし、まあいいか…」
とまあ、そんなこんなで、変わりばえのない付き合いが続いていた。 この状態に、ついに母親が「切れた」のだ。 まあ、故郷では、私はとうに「嫁き遅れ」の年齢だし、無理もないか…

でも、両親だけではなかった。
今までそういうことを口にしなかった祖父が、どういうわけか「するなら、せめて来年中じゃないのか…?」と言い出したのである。
なぜかこの言葉で、私は「まずい、もう本当にまずいのだっ!」と猛然と焦ってしまった(結局これは、虫の知らせだったんだけど…)。

帰京して数日後。
何気ない電話での会話から、突然話がそちらのほうに行ってしまった。
彼は相変わらず、のらりくらり、どうでいいことを言っている。それを聞いた私は、「コイツはだめだ」と覚悟を決めた。…そう、私はそれどころじゃないの、あんたのペースに合わせている暇はないのっ!

そして、ついに言ってしまった。
「このまま続けるつもりなら、もう私を解放してちょうだい!」
…ようするに、別れろ、と。
(この時は本気でそう思ったんですよ、脅しじゃなくて)

この言葉を聞いた彼は、真夜中だったにもかかわらず、私の家まですっ飛んできた。

そこで何を言われたのかは、実はよく覚えていない。ただ、結婚しよう、ということだけ。そして私の記憶には、「別れるくらいなら『結婚したほうがマシ』だったわけね…」 という、ひどい感想だけが残った。

そして、「これで終わっちゃったのかあ…」と。

そう、私は、結婚にはそれほど憧れがない、現実的な女。でも、プロポーズはね…。プロポーズは、特別なのよ。これだけは、カッコよくなくても、ドラマチックでなくても、何か「心に染みる」ものであって欲しかった。でも、

  「彼は、私に脅されてやむを得なかったようだ」

という印象だけを残して、私のプロポーズ体験?は終わってしまった。

後日聞いたところによると、彼は私の両親と会って以来、ずっとタイミングを見計らっていたらしい。が、
「女性にとって、プロポーズは大切なものだろうから、シチュエーションにも気を配ってあげなければイカン、フツウのプロポーズではイカンのだ!」
と、必要以上に気にしすぎて、うかつに言い出せなくなってしまったそうな。

…まあ、言い訳かもしれないけどね!