言ってしまった、それは禁句?!

…彼の家訪問

番外編。私が花ムコ殿の家を訪問した時の話です…

平成×年(いつだったかすら忘れたわい)の体育の日の午後。
私は、シュークリームなどというガラにもないものを作っていた。

今日は、彼のお家に招かれる日。そこで一応「彼女」として紹介される。
まあ、結婚話なんて出るはずないけど、それでもやはり緊張はするよね…。

着る服やお土産など、一応悩んでみたけれど、気張ってみてもしょうがないし、格好をつけて後でぼろを出すのは余計にかっこ悪い。そんなわけで今回は、一番私らしいスタイルで行くことに決めた。

で、服は、当時気に入ってよく着ていたワンピース(要するに本当に普段着)、手土産は、お花が好きな彼のお母さんに花束、愛猫にモンプチゴールド(猫にこびてどーする)。そして、手作りのシュークリーム。一応女の子らしいところをアピールしておこうかなと(実はこれでもかなり無理してるのよー)。

さて、準備万端整ったところで、一路敵地へ赴いたわけですが…

到着した彼の家は、三階建ての立派な一軒屋。

通された部屋をさっと見回すと…
家具はイタリア風のおしゃれなものでそろえられ、部屋のそちこちにお花が飾られている。テーブルは既に、食事のためのセッテイングがキレイに施され、食器もカトラリーもさりげなく上品。

わ、キレイ…こんな立派な食器やらクロスやら、私の実家では使ったことなんてないぞーっ…ま、まずい、どうも場違いなところにきてしまった…
うーーーん、どうしよう、帰っちゃおうかなーっ…

…5秒くらいの間に状況を察して、すっかり動揺した私。まず手土産をお渡ししなければ、と思ったのはいいけれど、緊張のあまり、これまたガラにもない言葉が飛び出してしまった。

「あの、お母様、」

…オカアサマ?
うわわわわぁ…、言ってしまった…それ、禁句じゃないのっ?
いえ、「結婚してないのにそう呼ぶのはおかしい」とよくいうけど、まあそれは相手にもよることだし、叔母様というよりはいいような気もする。
でもそれより、どうしてそんなガラにもない言葉が出てしまったのだ!?イタリア家具の毒気?に当てられたんだろうか…
そんな言葉を最初に口にしてしまったら、「この先ずーっと」そういいつづけなければならないわけで…

うへーっ、どうしよう、でも言っちゃったからしょうがない…

すっかり舞い上がってしまった私は、ワインで酔っ払うし、やたらと食べまくるし、どう考えても「オカアサマ」という言葉とは全面的に反する態度で、「妙な娘」を印象付けてしまった。

うえーん、でもまあ、とりあえず挨拶もしたし、いいかぁ…
と、自分を慰める私。出来ることなら、これ以上ぼろを出さないように、極力近づかないでおこう…

が、この一ヵ月後、もう一つ事件があった。

彼の車に同乗中に、彼ともども事故っちゃったのよね…
結果、私はムチウチになって、病院通い…。

経験者しかわからないと思うけど、ムチウチは結構大変。首だけじゃなく、寒かったり天気が悪かったりすると、頭は痛いし肩は動かないし…家事なんて出来たもんじゃない。

「ごめんなさい、どうぞしばらく、家で面倒を見させて…」
そこで、そう申し出てくれたのが、彼のお母さん、いや「オカアサマ」。完治するまでの間、一人暮らしの私のために、毎日のお風呂と食事を世話させてくれ、と言う(比較的家が近い)。
うひゃーっ、私、毎日「オカアサマ」言葉を使わなくちゃいけないのっ?それはムチウチよりもつらいかも…
でも、是非という申し出を断るわけにも行かず…
彼の家に、毎日通いました。なんと、二ヶ月。

そのおかげで、「オカアサマ」ともすっかり打ち解けて、ずいぶん気楽に話が出来るようになりましたとさ。不幸中の幸いとはまさにこのこと。
その間、当然「オカアサマ」と言いつづけましたよ、がんばって。

結婚してから、ようやく「お母さん」といったときは、逆に照れちゃいましたけどね。